🌸点字デジタルアートや浮世絵版画に類似する制作プロセスの類例🌸


浮世絵版画と点字デジタルアートの間に見られる「非視覚的情報からの具現化」「分業制」「指示と解釈の重要性」といった共通性は、実は多様な芸術ジャンルに共通する本質的な制作プロセスの一部を捉えています。他にも似た構造を持つ芸術形式はたくさんあります。


浮世絵版画と点字デジタルアートに共通する制作プロセスの類例


1. オーケストラの指揮と演奏

共通点:

非言語・非視覚的な指示(楽譜、指揮):

作曲家が記した楽譜は、音の高さ、リズム、強弱といった情報を記号化したものです。指揮者はその楽譜を解釈し、さらに自身の音楽的ビジョンをジェスチャーや表情、棒の動きといった「指図」で演奏者に伝えます。

分業制と解釈:

指揮者、各楽器奏者、そして作曲家という分業体制です。各奏者は、指揮者の「指示」を自身の楽器の技術と音楽的感性で「解釈」し、音として具現化します。

共同創造:

指揮者のリーダーシップと、各奏者の高度な技術が一体となることで、壮大な音楽が生まれます。


2. 建築(設計と施工)

共通点:

非視覚的情報からの具現化(設計図):

建築家が描く設計図(平面図、立面図、断面図など)は、建物の形や構造、材質、色といった視覚的な情報を「記号化」したものです。完成後の建物の姿を直接示すものではありません。

分業制と解釈:

建築家(設計者)、施工管理者、大工や鉄筋工、電気工など多様な専門職が連携します。各職人は設計図という「指図」を読み解き、自身の専門技術で具体的な建物を築き上げていきます。

コンセプトの具現化:

建築家のコンセプトやビジョンが、職人たちの手によって物理的な空間として実現されます。


3. 映画制作(監督と各部署)

共通点:

非視覚的情報からの具現化(脚本、絵コンテ):

映画監督は、脚本という文字情報や、絵コンテという大まかな視覚情報(必ずしも完成映像そのままではない)を基に、作品のイメージを膨らませます。

分業制と解釈:

監督のビジョンを、撮影監督、美術監督、俳優、編集技師、音響監督など、非常に多くの専門家がそれぞれの技術と感性で「解釈」し、映像、音、演技として具現化します。監督はまさに「指図」を出し、全体の調整役を担います。

統合された体験の創造:

各部門がバラバラに制作するのではなく、監督の意図の下で統合され、観客に多感覚的な(視覚・聴覚など)体験を提供します。


4. 彫刻(原型制作と石工)

共通点:

指示と具現化:

彫刻家が粘土や石膏で原型(マスターモデル)を制作し、それを基に大理石などの硬い素材に彫刻する石工(職人)が存在した場合、原型はまさに「指図」となります。石工は、その原型を忠実に、かつ自身の技術で素材から削り出します。

分業制:

古典的な彫刻制作においては、彫刻家がコンセプトと原型を提示し、熟練した石工が物理的な具現化を担うという分業が見られました。


5. 現代アートにおけるコンセプトアートと制作チーム

共通点:

非物質的なコンセプトからの具現化:

現代アート、特にインスタレーションやデジタルアート、メディアアートなどでは、アーティストの「コンセプト」や「アイデア」が作品の核となります。このコンセプトは、必ずしも視覚的な完成形として最初に存在するわけではありません。

多様な専門家との連携:

アーティストは、自身のコンセプトを実現するために、プログラマー、エンジニア、デザイナー、素材の専門家など、様々な分野のプロフェッショナルに「指示」を出し、共同で作品を具現化します。これらの芸術形式に共通するのは、「明確なビジョンやコンセプト(アイデア、設計図、楽譜など)が、単独の人間では具現化できない複雑さやスケールを持つ場合に、複数の専門家や高度なツール(AIも含む)が連携し、それぞれの技術と解釈を通じて、そのビジョンを現実の形として実現する」というプロセスです。

点字デジタルアートは、この芸術における普遍的な「共同創造」と「指示伝達」のプロセスを、現代のテクノロジーと「多様性」という新たなレンズを通して再構築している点で、非常に意義深いと言えるでしょう。


6.アニメーション制作(監督と各部署)

〇共通点:

非視覚的情報からの具現化(脚本、絵コンテ):

アニメ制作は、まず脚本という文字情報から始まります。監督は、この脚本を基に、映像の設計図である絵コンテを作成します。絵コンテは、完成映像そのものではなく、シーンの流れ、構図、キャラクターの動き、セリフ、カメラワークといった情報を記号的に示したものです。これは、浮世絵の版下絵や建築の設計図と同様に、最終的な成果物を指示するための「非視覚的情報」として機能します。

分業制と解釈:

アニメ制作は、膨大な数の専門家による分業で成り立っています。監督のビジョンは、作画監督、美術監督、音響監督、CGディレクターなど、それぞれの専門家が絵コンテや監督の指示を「解釈」し、具現化していきます。作画担当者は、原画や動画としてキャラクターの動きを描き、背景美術担当者は、その世界観を絵として描き起こします。

共同創造:

これら多岐にわたる専門家たちが、それぞれバラバラに作業するのではなく、監督の明確なビジョンのもとで緊密に連携します。各パートが自身の技術と感性で「解釈」を加えることで、監督一人の力では到底生み出せない、複雑で奥行きのある映像作品が完成します。


7.漫画制作(漫画家とアシスタント、編集者)

〇共通点:

非言語的情報からの具現化(ネーム、プロット): 漫画は、まず作者の頭の中にあるアイデアやストーリー(プロット)から始まります。これを、登場人物のセリフや大まかなコマ割り、演出などが描かれた「ネーム」という非公式な設計図に落とし込みます。ネームは、まだ完成された絵ではありませんが、物語の骨格と構成を指示する役割を果たします。これは、浮世絵の版下絵や建築の設計図、アニメの絵コンテと同様に、完成品を具現化するための「非視覚的情報」です。

分業制と解釈: 漫画家が一人で作業する場合もありますが、商業誌で連載を持つ漫画家の多くは、アシスタントを雇って制作を進めます。この場合、作者が描いたネームや作画の指示(「背景を任せる」「このコマの人物のペン入れを頼む」など)をアシスタントが「解釈」し、描画作業を行います。また、作者と編集者の関係性も重要です。編集者は、読者の視点からストーリーや構成について助言し、作者のビジョンをより良い形で具現化するための「指示」を出します。

共同創造: 漫画家が創造する世界観やキャラクターは、アシスタントの描画技術や編集者のアドバイスが加わることで、一人では生み出せない完成度と魅力を持ちます。特に背景やモブキャラクターの描き込みなど、アシスタントの役割は作品のクオリティを大きく左右します。このように、作者の指示と、アシスタントや編集者の解釈・協力が一体となることで、一つの作品が完成します。


なぜ漫画も類例として優れているか

漫画がこの類例として適切である理由は、「作者の明確なビジョン(ネーム)」と、それを具現化する「分業制(アシスタント)」という構造が明確に存在するからです。

  • 指示と解釈の多様性: アシスタントは単に言われた通りに描くだけでなく、作者の意図を汲み取って背景のディテールを工夫したり、より効果的な表現を提案したりすることもあります。これは、浮世絵の彫師が版下絵に彫りの工夫を凝らすことや、点字デジタルアートでAIが入力情報を解釈して独自の表現を加えることと共通しています。
  • アナログとデジタルの融合: 漫画制作は、ペン入れやトーン貼りといったアナログな作業と、デジタルツールでの彩色や編集作業が混在していることが多く、この点も、伝統的な芸術と最新テクノロジーが融合する点字デジタルアートと共通する側面を持っています。

結論として、漫画もまた、この普遍的な「共同創造」と「指示伝達」のプロセスを内包する芸術形式であると言えるでしょう。


私たちは、究極的にまったく新しいものが生まれることはないと考えています。伝統的な手法の積み重ねこそが、その最先端の表現となり、新しい芸術を生み出すのだと信じています。

点字デジタルアートは、まさにその最先端を行く芸術活動の一つなのです。